中国の胡錦濤国家主席が8日、早大での講演で日本国民に発信したのは、青少年交流の強化による日中の相互理解の増進だった。胡主席は「青年時代に中日友好の種を広くまき、子々孫々に伝えたい」と述べ、未来志向の姿勢をアピールした。
講演はNHKで全国に同時中継されたほか、中国でも中国中央テレビを通し全土に生放送された。中国側は両国国民に直接、「最も重要な2国間関係の一つ」(胡主席)の日中関係を訴える場として、訪日のクライマックスと位置付けた。
胡主席は「私は青年に特別な思いがある」と語り、自らの青年交流の経験を振り返った。
胡主席は84年に日本の青年3000人が訪中した時、中華全国青年連合会主席として「受け入れ役」を務めた。85年には共産主義青年団第1書記として中国の青年100人を率いて訪日しており、青年交流には特別な思い入れがある。
「中日関係は青年時代からの交流を通して信頼関係が生まれる」というのが胡主席の信念だ。また「友好は国民同士の共同事業だ。努力が必要」とも述べ、関係がぎくしゃくした時も互いの努力で乗り切るよう呼びかけた。
一方で過去についても言及した。ただ「私たちが歴史を銘記するのは、恨みを抱き続けるためではなく、歴史を鑑(かがみ)に未来に向かうためだ」と語った。
98年に同じ早大で講演した江沢民主席(当時)が「日本軍国主義は対中侵略戦争を起こし、中国は軍民3500万人が死傷した」と歴史観にこだわったのとは対照的に、胡主席は過去より未来に重点を置き、7日の首脳会談で確認した「戦略的互恵関係」の推進を前面に押し出した。
胡主席はまた日本の政府開発援助(ODA)に謝意を表明した。日本政府は中国側にODAへの前向きな評価を繰り返し求めてきたが、中国側には「ODAは対中戦争への賠償であり当然」との受け止め方がある。中国の最高指導者が日中両国国民に、ODAの役割を認めたのも「未来志向」を目指すメッセージといえる。【堀信一郎】
◇「新しいスタート」訴え--福田首相講演と「共鳴」?
昨年12月に訪中した福田康夫首相も北京大学での講演が中国全土に生中継された。胡錦濤主席が8日の講演で「両国関係は新たな歴史のスタート地点に立っている」と切り出したのは、福田講演の「日中関係を新しい段階に引き上げたい」という呼びかけに対する応答だ。
両国政府は、国内世論の排他的ナショナリズムという悩みを共有している。胡主席講演の後、福田首相は「日中青少年友好交流年」開幕式で再び応答を返すように訴えた。
「友好を深めるには相手のありのままを理解することが大事だ。特に若者はステレオタイプの国家観や国民像で満足するようではいけない。お互い努力することで心に響く対話ができるようになる」
日中の新しいあり方を目指す両首脳の考え方は、外交姿勢にも表れる。7日の首脳会談で福田首相は「共鳴(シナジー)外交」の持論に基づき「アジアと世界の安定への日中両国の責任」を強調。胡主席も講演で「両国共同の利益は絶えず広がり、国際社会で担う責任はますます重い」と指摘。テロや地球温暖化など国際的課題でも日本と協力する決意を表明した。【須藤孝】